お茶零した。

作家・尼野ゆたかの日記です

最近聴いた一枚~陰陽座「鬼哭転生」

「妖怪ヘヴィメタル」を標榜し、来年でデビュー20年になる今もなおその音楽性を貫き続けている陰陽座。男女ツインボーカルを中心に据えたオリジナリティ溢れるヘヴィメタルは、ひとたび聴けば忘れられないほどのインパクトがあります。アニメソング等のタイアップでご存じの方もおいでかも。
 

 

妖怪は怖いだけじゃない

そんな彼らのデビューアルバムが「鬼哭転生」です。
 

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オープニングのSE"転生"や、「この世に、不思議なことなど、何もない」「うふふ。あそびましょう」という台詞にせよタイトルにせよ京極夏彦オマージュである"眩暈坂"*1などは不気味な雰囲気が強く、ともすればアルバム自体にそういうイメージを持ってしまいがちですが、実際のところは意外とそうでもないんですよね。
 
"鬼"や"文車に燃ゆる恋文"、あるいは"百の鬼が夜を行く"など様々な曲で親しみやすいメロディが次々飛び出してきますし、ボーカルである黒猫の手による哀歌"氷の楔"は、シンプルなピアノがメインアレンジと合わせて、メタルの枠を超えて広がる魅力があります。
 
 
水木しげるにせよ鳥山石燕にせよ、怖くて不気味なだけじゃないですよね。なんていうかそんな感じ。
 
 

和風要素を味わおう

ギタリスト狩姦(かるかん)が「忍法」と称する早弾きを繰り出すライブの定番曲”鬼斬忍法帖"や、陰陽師そのものをテーマにした勇壮なアップテンポナンバー"陰陽師"、たっぷり時間をかけておどろおどろしく織り上げる"逢魔刻"などヘヴィメタルらしい曲が満載ですが、一方でただ単純に海外のメタルを翻案しただけにとどまらず、要所要所で和音階を用いて独自の世界を繰り広げているのも聴き所です。"文車に燃ゆる恋文"や"百の鬼が夜を行く"、"亥の子唄"辺りは白眉。
 
和音階と言っても、とりあえずこの音とこの音をこうするとこういう雰囲気になるというルールが存在する以上、本来は誰がどう使ってもそれっぽい感じになります。しかし陰陽座はそういう理屈の次元から一歩踏み込み、より昇華された形で「和」を表現しているのですね。
和魂洋才という言葉がありますが、彼らにこそ相応しいのではないのでしょうか。
 
 

初めて観たのは心斎橋ミューズホール(現大阪MUSE

作品を重ね、幾多のライブを行い、演奏も歌唱もアレンジもプロダクションも磨き抜かれていく陰陽座の音楽ですが、では初期の作品が低水準かというとそんなことは決してありません。若書きや原点としてだけではない一つの音楽作品としての輝きを、この「鬼哭転生」は放っていると言えましょう。
ちなみに個人的に思い入れ深いのは、アルバム最後に入っている"亥の子唄"。初めて行った陰陽座のライブの締めがこの曲だったんですよね。
もう15年近く経ちますが、ほんほんえーいと唱和したあの光景は未だ瞼の裏に焼き付いております。

*1:中心人物であるベース兼ボーカルの瞬火<またたび>が京極ファン。当時は佇まいも結構京極堂感があった