「封神演義の基礎知識」を読みました
買ってから読もうと読もうと思っていて時間が取れず、ようやく読めた一冊。
ご多分に漏れず藤崎竜版でしか封神演義を知らなかったので、大変勉強になりました。
あらすじからして素晴らしい
巻頭のあらすじを読み始めるや否や、一気に封神演義の世界に引き込まれます。
堅苦しくない語り口で分かりやすくコンパクト、しかし封神演義がいかに奇想天外な物語であるかについては丸めることなくしっかり織り込まれていて、大変読み応えがありました。
丁寧な脚注や神々についての解説など、基礎知識としての大事な側面もばっちり。
しかしとんでもないなあ……周が殷を滅ぼし覇を唱えた、という遠い過去の出来事にここまで突拍子もないストーリーをぶち込むとは。藤崎竜版も、読んでいた時は驚きの連続でしたが、今思えば遥かに冷静に積み上げられた話だったのだなあと。
ただの図鑑にとどまらず
続いて登場人物の紹介が始まるのですが、こちらも素晴らしい内容でした。読み進めていくうちにゆっくりと全体像が浮かび上がってくる様は、紀伝体の史書における列伝のようでした。
書き味も幅広く、たとえば楊任*1などコミカルなテイストの解説もある一方で、
善玉であるはずの闡教(せんきょう)の仙人たちが発する言葉の裏に潜む傲慢さを鋭く指摘し、悪玉の截教(せつきょう)に属する仙人たちの敗れゆく姿には哀惜の眼差しを注ぎ……と、ただ珍奇な部分にフォーカスするだけではない深みがありました。何度も読み返したくなる内容です。
それを彩る七原しえさんのイラストも見事でした。藤崎竜版との被りを回避しつつ、原作の突拍子もない描写(「紫色の顔に鋼より硬い髪」とか、「足の先に瑞雲を纏って空を飛ぶ椅子」とか、「頭の上に塔がある」とか、けったいなものが沢山)を生かしてまとめ上げる様は実に素晴らしいものでありました。
ラスト(索引)まで目が離せない
巻末には索引がついているのですが、こちらも力作です。死んだはずなのに再び現れるキャラクターや、重複して登場する宝貝*2についても比較できるよう列記されているのですが、十回以上使い回されている黄巾力士という宝貝を逐一ピックアップしている様などは圧倒的で、ちょっとおかしみを感じてしまうほど。姫昌*3の息子もようけおり過ぎやなこれ……。
個人的メモ
いわゆる「西方浄土」の存在の大きさ(戦争の構図から独立して行動している)。
覇業を為した後で紂王の息子による反乱が起こるエピソードが存在すること。
鄧蝉玉が水滸伝に登場する扈三娘と設定やキャラクター性、エピソードの展開や結末までかなり類似していること。
などなど個人的に興味深い話が沢山ありました。
特に最後、ただ似ているという次元の話ではないのでかなり興味を惹かれました。きっと色々あるんだろうなあ。
まとめ ~これぞまさしく「歴史の道標」~
決して分厚くはありませんが、内容と密度は本当に濃いです。初心者が封神演義の世界を旅する道標として、これほど頼りがいのあるものはそうないでしょう。帯の「ビジュアル完全ガイド」はフカシではありませんね!
ところで、参考文献には内外の資料を渉猟したことが記されているのですが、Dagama*4編集部とか懐かしすぎる名前があって、しばし記憶が甦ったり。読みたかったけど近所の本屋に置いてなかったんだよなあダガマ……ネット通販なんてない時代だったしなあ……。