お茶零した。

作家・尼野ゆたかの日記です

「機動戦士Zガンダム外伝 審判のメイス」をガンダム知らない人にもおすすめしてみる

友人の漫画家・Rohgunさんが作画を担当している、神野淳一さん原作・機動戦士Zガンダム外伝 審判のメイス」。電撃大王に連載されているこの「審判のメイス」について少し感想的なものを書いてみました。やるやると言いつつ先延ばしになってましたが、ようやくできました。時間かかってしまった……。
 

 

ガンダムを知らない人にもあえて

「審判のメイス」は「Zガンダム外伝」と銘打たれてます。ガンダムの基礎知識があるひとなら「Zの外伝だけど0089年で時系列的には第一次ネオ・ジオン抗争の後で」と話せば概ね伝わりますし、そういう方々にはとりあえず読めよ! でいいのですが、折角書くならガンダム知らない人にも届けたいもの。というわけで、できる限り前提知識を必要としない形で書いていこうと思います。
お詳しい方には分かりきった話が続いたり、あるいは尼野ゆたか自身浅学の身でありますゆえ物足りない部分があるやもしれませんが、どうか大目に見てやって頂けましたらと。
 

Zガンダムとは? 審判のメイスとは?

機動戦士Ζガンダムとは、「機動戦士ガンダム」の続編で、1985年から1986年にかけて放送されました。

 
アムロとシャア、連邦とジオン公国の戦い*1のその後を描いたシリーズで、「ガンダム」とはまた違うテイストから根強いファンが多く、21世紀に入ってから劇場アニメとして再編集・新カットを追加されたものが放送されたことも。
 
この「審判のメイス」は、その「Zガンダム」のスピンオフ作品であり、「Zガンダム」で主人公たちと敵対していた組織である「ティターンズ」や、そのティターンズの兵器「サイコガンダム」などが登場します。
また、同じく「Zガンダム」のスピンオフ作品である「ADVANCE OF Ζ 刻に抗いし者」とも関連があり、つながりを伺わせるキャラクターが存在してたりもします。
 
なので、それらの作品を読んでいればキャラクターの言動や世界の背景などが更に深く理解できるわけですが、知らなくとも読むことはできるんじゃないかなーとも思います。
なんの説明もなく物語が始まるわけでもありませんし、合間合間に解説ページも挟まれるので、そうハードルが高くもないはず!
知ってる人間の「大丈夫初心者にもいけるよ!」はえてして怪しいわけですが、「審判のメイス」については割合大丈夫なはず。ジオングジ・Oとジークジオンの区別がついていない*2知人も楽しく読んでおりましたし。
 
 
 

現実なのさ 不思議な気持ち 本当のことさ

連載前。Rohgunさんから「次の新作はガンダム作品」絡みと聞かされた時にゃー、それはもう感動でした。やっぱりガンダムは自分らにとってとても特別な存在です。その歴史に名を連ねることができるのは、実に名誉なことですからね。
ガンダムシリーズの生みの親である富野由悠季氏には「そんなことを言ってるからねえ! あなたはうだつが上がらないのよ! 自分で切り拓こうという気概を持て!」みたいに叱責されるタイプの考え方かもしれませんが、でもガンダムですよガンダム。そんなんワクワクするに決まってるやろ。
 
 
というわけで尼野ゆたかは「審判のメイス」の連載が始まるや否や大王を開いて真っ先に確認し、オオオオと感動したわけです。Rohgunさんがガンダムを描いている! 公式で! ガンダムフロント*3で二人でハロ*4のまんじゅう食ってた時には、まさかこんなことになるなんて……!
 
でも考えてみれば、あの時もRohgunさんのガンダム愛は図抜けていました。施設の目玉は勿論1/1のガンダムだったわけですが、尼野ゆたかがわーガンダムでっけーなーと素朴に感動している横で、Rohgunさんは「関節は……」「足のパーツは……」と細部に至るまで鋭い観察を加えておりました。
 
 

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納得いくまで1/1ガンダムの足首を撮影するRohgunさんの姿。
驚嘆すべき探求心ですが、この熱心さは確実に「審判のメイス」の作画に生かされておりました。次の項目でそれを見ていきます。
 
 

Rohgunモビルスーツのここがすごい!(私見)

たとえば主人公の若者ヨーン・ユルヤナが最初に搭乗するモビルスーツ(=ロボット)のGMIII(ジムスリーと読みます。正確にはもうちょっといろいろパーツとかついてますが)、いわゆる量産型です。面構えもガンダム系のきりっとした感じじゃなくていじめられっ子顔をしていて、本編でもジムシリーズは敵にぽんぽん墜とされるのがお約束なのですが*5、今回は実に格好良く戦うのですね。
 
 
決まってますねー。重力がない空間故の姿勢・ポーズというんでしょうか*6、プラモデル(いわゆるガンプラ)で再現してもバシっと決まりそうなコマですね。
 
 
 
むろんジムだけではなく、ガンダムシリーズであるからしガンダムも登場するわけですが、こちらはこちらで「メインを張る」颯爽とした凛々しさを感じさせてくれます。
 
 

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表紙でこちらを見ているのが、ヨーンの搭乗するガンダム[グリンブルスティ]ですね。
実に格好良い!
 
 
ガンダムのスピンオフ作品は、シリーズ本編のように「超人的な能力を持ったエースが『たった一機のモビルスーツ』で大活躍しまくる」というより、本来脇役な兵士である登場人物たちが必死に生きていく・運命や逆境に立ち向かっていくというのが一つの王道としてあります。
それゆえに、主人公が最初に乗るのが作業用の機械に大砲を付けただけの兵器だったり、どう考えても失敗品の試作兵器で戦うよう命令を受けてしまったり、腕や足を失ってもまだ戦うことになったりと悲惨なものもしばしばあるのですが、ヨーンは今のところ乗機に恵まれていると言えますね。
 
 

Rohgun新境地!?

さて、次はキャラクターの話を。
一読してとりわけ強く印象に残るのは、やはりヒロインのアイリス・アリスンでしょう。
 
 
服を着たときの体のラインがどこか丸みを帯びていて、柔らかさを感じさせられる(宇宙服みたいなもこもこしたものを着ている時だけではなく、軍服着用時でも同様)のにどきりとしました。
今までにも魅力的な女性キャラクターを多数描いてこられたRohgunさんですが、このおしつけがましくない肉感には唸らされました。新たなる境地が見えてきたように思います。
 
同時に、主人公の上官として登場するエスター・マッキャンベルはよりセクシーな描かれ方をした女性なのですが、彼女が服を脱いだ際にはただくびれているだけではなくあばらの部分もさりげなく描写されていて、はっきり描き分けられています。
 
 

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http://hobby.dengeki.com/news/327311/より引用。サービスカットは単行本で!

 今回が初めての試みかどうかの検証はさておき、絵心のない尼野ゆたかでもはっきり分かるということは、すなわちそれだけ表現として昇華されているということなのでしょう。
 
 

twitter.com

Twitterを見るとフェイトグランドオーダーをしているアイカツおじさんという側面が大いに出ているRohgunさんですが、ブログの方でこつこつ書き溜められている映画評を読めば分かる通り、たゆまぬ努力を煉瓦のように一つ一つ積み上げる人でもありますので、これからもきっと新たなる境地を生み出し続けていかれることでしょう。楽しみですね!
 
 
女性キャラクターについて話しましたが、もちろん男性キャラクターにもそれぞれ魅力があります。
Rohgunさんお前作「マブラヴ オルタネイティヴ トータル・イクリプスrising」でも多数登場していた「厳つい顔のおっさんたち」は勿論のこと、美形のライバルキャラクターであるアルノー・ワイゼンベルガーの描写は新機軸とも言える切り口を感じられます。
 

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怜悧さと、戦闘時に見せる激しい昂ぶりとコントラスト。これまたRohgunワールドの新境地といえるかもしれません。
 
 

モビルスーツたちの日常

さて、これは自分の個人的な好みの話かもしれませんが。
ガンダムシリーズに登場するモビルスーツは、勿論兵器であるからして戦うシーンがメインなわけですが、時として違う横顔を見せます。
 
たとえば配信中心に展開しているシリーズ「機動戦士ガンダム サンダーボルト」では、「宇宙空間でモビルスーツの背中からロボットアームみたいなのがにょきっと出てきて、スペースデブリ宇宙ゴミを挟んでどける」みたいな描写がありますし、熱帯雨林を舞台とする「機動戦士ガンダム 第08MS小隊」のオープニングでは、葉っぱを沢山つけた偽装網を引きちぎって出撃するモビルスーツの姿や、大破して深い窪みに落ちたモビルスーツを引き上げようと悪戦苦闘している様子などがクローズアップされています。
 
「審判のメイス」の本編である「Zガンダム」でも、宇宙ステーション的なところスペースコロニーで戦っていて壁面に穴が開いてしまったら、モビルスーツの指が外れて中から木工用ボンドみたいなの*7を発射して穴を塞ぐみたいなシーンがありました。最初のシリーズでもモビルスーツで資材運びしてたような……これは記憶違いかな……。
 
そんな感じで、ただ格好良く戦うだけでなくそれ以外の場面での振る舞いを見られることをさりげなく楽しみにしているのですが、この「審判のメイス」でもそれがありました。主人公達が、宇宙空間で機雷の除去をしているというシーンです。
漂っている機雷が戦艦に当たらないようちまちま破壊して除去するという何気ないシーンなのですが、そのどこか呑気な雰囲気が何とも言えずいい感じでした。相手は基本ただの浮遊物なので、モビルスーツの姿勢もえらいリラックスしてるんです。そうだよね、別にずっとドンパチやってるだけじゃないよねっていう。
今後もそういうのが見られたらいいなあ、とこっそり期待もしたり。
 

最後に

「審判のメイス」は、ガンダム関連の執筆で活躍されている神野淳一氏による連載小説を元にした作品です。
本来ならばその原作とストーリー的な面を比較しながら触れるべきところなのですが、大変恐縮ながら原作は未読でして、その状態で物語についてあれこれ言うのは不足があります。
なので、10年来のRohgunファンとして感じたことを記して紹介に代える次第です。物語としても、「Zガンダム」の外伝としての骨格を保ちながらも独自の展開を見せており、触れたいのは山々なのですが……残念。
 
 

今後の予定は?

さてそんな「審判のメイス」ですけれども、2月26日には第2巻が発売されるとのこと。自分はむろん連載で読んでおりますが、コミックスという形で再び読めるのが楽しみです! 
 
 
ちなみに今回画像を引用させて頂いた電撃ホビー様では、月二回「機動戦士Zガンダム」のカテゴリで詳細なフォローアップが展開されているので、ある程度ガンダムの知識がある方は単行本本編と合わせて読むとより理解が深まることと思います。そちらもおすすめ!
BGM: Give Me A Sign / Talisman
 
 

*1:一年戦争と呼ばれます

*2:ジオング→シャアが乗った「足なんて飾り」なロボット ジ・O→「Zガンダム」の敵の親玉的な存在が乗ったロボ ジークジオン→ジオン万歳

*3:東京お台場にかつて存在したアミューズメント施設

*4:ガンダムシリーズに登場するマスコットキャラ

*5:初登場時からしてシャアに秒殺されている

*6:重力というのは、ガンダムシリーズでしばしば象徴的な意味を持つ言葉でもあります

*7:名前はトリモチランチャー